2009年05月12日

オリンピックの身代金 奥田英朗著。

≪★★★☆≫
東京オリンピック開催間近の、国民すべてが浮かれていた日本。
一人の青年が、富を吸い上げ、貧しさを底辺の人間に押し付ける不平等な日本、政府を相手に、オリンピックを人質に身代金を要求するという大胆な犯罪に出た。

序盤は、警察官僚の自宅、警察寮、開通間近のモノレールが爆破され、時間を前後しながら東大生、島崎が秋田から出稼ぎで来ていた長兄の死により、兄の代りに労働者となり過酷な労働に耐える日々が描かれている。
どう見ても、島崎がこの先この爆破事件に関わるように見えなくて、のったりゆったりしていて、ペースダウンしてしまった。
兄の遺骨を郷里に持ち帰る際、汽車の中でスリの常習犯村田と知り合い、その村田を見逃すという島崎に、イライラしたりして、もし島崎が爆弾犯だとして、この村田がそそのかしていたらむかつく〜〜、なんて思っていたけど、序盤ののったりゆったり感は、島崎が、どのように変化していくのかという大事なペースだったんだ。

中盤には、島崎が自分の信念に基づいた行動を応援し、終盤は、村田と同じ目線(は無理だけど、村田の「死なさんでけれ」がよく分かる)で、島崎は一本気すぎて損をしたようにも思うし、生真面目な人間ほど怖いものはない。

過酷な労働に従事するしかなく、底辺で必死になって浮かれたオリンピックを築き上げた人々のことは見てない日本に、そこに東大生島崎を置き、目を向けたさすがの奥田氏の作品。
個人的に言えば「邪魔」や「最悪」そして「オリンピックの身代金」も同種で、重くてあまり好きじゃないんだけど、奥田氏の力をやっぱり再認識してしまう。
途中、貫井氏を読んでるのかと思ったけど(暗さがね)、これはやっぱりさすがだ。
島崎の成功を願う自分と、オリンピックはいいなぁ、とはしゃぐ自分がいること。まるで村田だ。



posted by じゃじゃまま at 14:11| 🌁| Comment(9) | TrackBack(6) | 奥田英朗 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初めは、島崎の存在はミスリードかと思っていました。
あまりにも島崎が平常心なんですもの。
でもだんだんと、その平常心と大胆さに不思議な興奮をもたらされました。
大それたことを企んだ犯人には違いないのだけれど、なぜか憎みきれませんでした。
Posted by ふらっと at 2009年05月12日 16:40
いつまで経っても人物像がつかめない島崎に手こずりました。
で、結局島崎を理解することなく、気がつけば終わっていました。
だからでしょうか。大作だと分かりながらイマイチ作品に乗れませんでした。
「邪魔」「最悪」はイケたんだけどな〜。
Posted by しんちゃん at 2009年05月12日 20:18
島崎のキャラの作り方は、
今までにない、独特の方法でしたね。
謎が少し解けた気がします。
思い込みって、怖いものです。
時代の雰囲気漂うドキュメンタリータッチも
力量を感じさせてくれました。

Posted by 藍色 at 2009年05月13日 02:32
おはようございます。
現在と数ヶ月前。
島崎の部分がどんどん現在に追いつく構成が面白かったです。
Posted by なな at 2009年05月13日 05:46
ふらっとさんへ
島崎のあの平常心さ、私も彼がまさか大胆な行動に出るとは思いませんでした。だから村田がそそのかすのかと最初は勘繰ったくらい。
犯罪に賛成はできないけど、島崎は日本の不平等さに行動を起こした奇跡の人だと思います。

しんちゃんへ
他人の私が分析しても意味ないけど、島崎は生真面目ゆえに、いろいろな引け目を真正面から感じてしまったんでしょうね。特に島崎が、労働者層に混じり、その中で日本の不平等さに静かな憤りを感じていく様子、すごく理解できました。でも、私は恐らく闘う術を知らない彼らと同じで、どうすることもしないけど。

藍色さんへ
生まれた時には東京オリンピックは終わっていましたけど、小説のような雰囲気は私の幼少時代にはまだあったと思います。
島崎は奇跡の人ですね。日本人はおとなしいから行動を起こす人っていないですもんね。

ななさんへ
最初の島崎では、まさか彼が爆弾犯には結びつかないですが、徐々に彼の行動が理解できるようになりました。奥田作品では軽めの方が好きなんですけど、重めの中ではこれが一番納得のいく作品でした。
Posted by じゃじゃまま at 2009年05月13日 10:13
>島崎の成功を願う自分と、オリンピックはいいなぁ…

わかるなぁ、その気持ち(^^ゞ
なんか一泡吹かせたい。
警察を出し抜いて、そのまま人知れずいて欲しかった(笑
Posted by じゅずじ at 2009年05月13日 17:20
じゅずじさんへ
そうだそうだ!そういうラストだってよかったですよね。
オリンピック妨害は史実的に書けなかったにしても、島崎逃がしてあげてもよかったですよね〜。
奥田さん、今回は笑いなしの、とことん本気できましたね。
Posted by じゃじゃまま at 2009年05月14日 22:20
さすが奥田さん!って感じの作品でしたよね。
視点によりズレのある時間差なんか、本当に見事でした。
読んでいて、それで混乱しなさ具合に違った意味で感動したり(笑)
こういうずっしりくるのもいいですね!
Posted by ゆう at 2009年06月09日 08:27
ゆうさんへ
混乱させないっていうのがさすがですよね!
私は奥田さんのずっしりってあまり面白い!って感じないんですけど、これはよかった!
島崎がなぜ犯行に至ったかが分かるような気がします。
Posted by じゃじゃまま at 2009年06月18日 15:44
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