2010年10月16日

あの日にかえりたい 乾ルカ著。

≪★★★≫

誰しも、かえりたい日がある。もしも、それが叶うのなら。
−時の残酷さと優しさ、時空を超えた小さな奇跡と一滴の希望を描いた渾身の短篇集。−

乾氏は「プロメテウスの涙」が初読みだった。すごかった。なんというか、そういうことか!って衝撃が大きくて、読み終わったときよりも、時間をかけて、ああ、こんな物語待ってたかも、って思っちゃうくらい、グッドだった。
そして、今作。

優しい残酷、というか。でも希望があるというか。読みながら、私だったらどの日を強く願うだろうか、って思った。
どん底にいた人が、希望のきっかけを掴む。でも、後から思うと、それはとても不思議な出来事だった。
ちょっと嬉しさが込み上げてくる短篇集。

「真夜中の動物園」 クラスメイトにいじめられる少年。彼らに会わずに済む夏休みは天国のはずだったのに。なにかと要らぬ心配をする両親に、事実を伝えられず、苛立ちを募らせる少年。希望の夏休みが絶望の夏休みに変わろうとしていたある日、少年は真夜中の動物園で、首に暗い穴を持つおじさんに出会う。そのおじさんは・・・。

絶望していた少年が、将来、立派なおじさんになってるのが嬉しいけど、暗い穴が気になる。

「翔る少年」 これぞ時空を超えた奇跡。実母を病で亡くした少年に、新しいお母さんがやって来た。彼は決して新しいお母さんが嫌いではなかった。作文を書いた日、少年の住む島に大地震と津波が襲ってきた。家族とはぐれてしまった少年は、どこかで見覚えのあるおばさんに助けられる。
そして、作文に書いた通りの夢が叶っていく。おばさんの家には、見覚えのあるおじさんとお姉さんの写真の家族写真があり・・・。

会えないと思っていた家族が、こうやって会いに来てくれたら。でも、それは悲しい真実でもあった。

「あの日にかえりたい」 老人ホームにボランティアでやって来た女子学生。そこで出会った老人は、彼女を見て驚く。名前が亡き妻と同じなのだ。そして面影も。
散々苦労をかけた妻が病気を苦に自殺してしまった老人。その妻の最期にかえりたい、かえりたいと願っていた老人の、本当の願いとは・・・。

「へび玉」 高校時代のソフトボール部の仲間は小林由紀恵にとって、大切な宝物だった。高校生活は、その仲間のためにあるようなものだった。それなのに、由紀恵だけがなんのとりえもない年増女になってしまった。15年後に再会を誓った仲間たち。その時に一緒にしようと約束したへび玉。約束の日に来たのは、由紀恵だけのはずだったのに・・・。
ここにも時空を超えた奇跡があった。

時を超えて再会した由紀恵と仲間たち。疲れたおばさんになった由紀恵でも、それでも未来があるというのは幸せなことなのだ。

「did not finish」 芽の出なかったアルペン選手。自分の才能を信じて、彼は続けてきた。その最後になった運命の試合。大きくコースアウトしてしまい、死の淵を彷徨う彼が願ったあの日は、彼に才能を信じさせた、遠い過去の日。
まだ子どもだった彼に、「チャンピオンになる」と告げた見知らぬ人。濁流のような記憶の流れの中で、彼は、自分に才能を信じさせた見知らぬ人の正体を知る。

大黒選手は、アルペンが大好きだったのだ。たとえ世界では無名であっても、力が及ばなくても、彼はアルペンが大好きだっただけなのだ。

「夜、あるく」 亜希子は夜の散歩で出会った老婦人のことが気になる。初めて出会う婦人なのに、どこか懐かしいのだ。だけど、その老婦人とは冬の間しか会えない。老婦人の事故の傷跡と亜希子の腕の傷。
亜希子と老婦人が絶望していた過去のあの日。

二人の傷跡が、二人に新しい明日を約束してくれる。

個人的には、ああ、会えてよかったよね〜と思わせてくれた「夜、あるく」が希望があって好きだけど、小さな怖さとすごい奇跡を感じた「翔る少年」が好きだな〜。
悲しい真実もあるから、ちょっと暗い気分にもなるけど、でも後悔や辛かった時間が、時を超えて少年が会いに来たことによって、救われたのではないだろうか。

そして、少年自身も、決して継母のことが嫌いなんかじゃなくて、ちょっと恥ずかしかっただけで、新しいお母さんへのリクエストがどんどん叶えられていくのが、なんだか嬉しかった。



posted by じゃじゃまま at 22:14| 神奈川 ☁| Comment(2) | TrackBack(1) | 乾ルカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
嬉しいけど哀しい、そんな物語でしたね。
「翔る少年」2人とも想い出に残る一日が過ごせてよかったですよね。継母が見せる切なそうな仕草がなんともいえなかったです。
Posted by なな at 2010年10月17日 21:08
ななさんへ
やはり母親だからか、「翔る少年」が一番印象的で、好きでした。乾さん、ちょっと目が離せませんね。
Posted by じゃじゃまま at 2010年10月22日 11:32
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「あの日にかえりたい」乾ルカ
Excerpt: JUGEMテーマ:読書 北海道を舞台に、時を超え「あの日」へ帰る人びとの、小さな奇跡と希望を描く、感動の傑作短編集! 乾さん、初読みです。「メグル」を借りて2話くらい読んだんだけど、子供に..
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