2011年05月29日

灰色の虹 貫井徳郎著。

≪★★★★☆≫

冤罪によって人生を滅茶苦茶に狂わされた男には、復讐は権利か。当たり前の行為で神さえも背中を押してくれるのか。
江木雅史は、たまたまその日上司と口論になったせいで、たまたま上司が何者かに殺されたせいで、疑われ、そのまま有罪になってしまった。
どんなに叫んでも、訴えても、誰も信じてはくれなかった。
一体、誰が悪いのか。

恋人も、家族も、職も、なにもかもを奪われた時、心はとっくに折れ、死に絶え、残るのはすべてを奪った者たちへの復讐のみだった。

<刑事> 強引な取調べで江木を自白に追い込んだ男、伊佐山。伊佐山にとっての真実とは、もはや事実とは関係なく、自分の信じた勘がそのまま逮捕に至ること。
7年前の江木の事件のこともその中の一つであって、この男は、その日の夜もまた事実関係やアリバイなど関係なく、強引な取調べで、真犯人を逃がし、冤罪を生んだ日、江木の手によって幕を閉じた。

<検事> 谷沢は逮捕され、自白までした江木の調書を信じ、自分の正義感そのままに裁判で戦っただけである。
だが、無実を叫び続けた江木にとって、彼もまた復讐の相手の一人であった。

<弁護士> 国選弁護人はお金にならない。どうでもいい裁判には、時間も手間もかけていられない。だからおざなりな弁護になる。江木の裁判は、金にならないし、鼻から彼の無実など信じてなどいなかった。
綾部は、ヤクザの裁判に関わり、ヤクザに接待され、このままもしかすると自ら身を滅ぼすかも、と思っていた矢先、やはり江木に襲われる。

<裁判官> 江木の裁判に関わった裁判官三人のうち二人までが命を落としていた。ようやく警察も江木の犯行を確信し追うが、捕まらない。
警察は、江木の母親、元恋人を訪ねるが行方は掴めない。江木の犯行にいち早く気付いた山名は、かつて自身も恋人を暴漢に殺された過去を持ち、いつの間にか江木に同調している自分に気付く。
江木の犯行、冤罪を認めることができない警察内部と、江木の冤罪を信じ始める山名。
山名の奔走も虚しく、妻の不貞に気付き、余裕のなくなった裁判官、石嶺も殺される。
しかしどこにも江木の姿は認められない。

<目撃者> この愚かな男によって江木は人生を奪われた。本当はろくに見てもいないのに、途中で江木ではないと思いながらも、証言を翻せなかった男雨宮。
ブログに、自分の体験を興味本位で綴り、高揚感いっぱいになっていた雨宮を恐怖のどん底に落とした江木の影。
雨宮さえはっきりと証言していたら、と思うと。
私は江木の犯行を責める気持ちにはなれなかった。

一人のいい加減な証言によって、一人の思い込みの激しい強引な刑事によって、一人の目立たないけど小さな幸せを掴もうとしていた男の人生は壊れた。
その恋人も、結婚間近だった姉も、失意の底で命を絶った父も、すべてを奪われた母も、その被害者だ。
日ごろからの横暴な言動が引き金だったかもしれない会社の上司も、被害者ではあるが、真犯人を捕まえてもらえず、彼らも不幸だ。

綾部ももっと真剣に弁護していたら、検事や裁判官も巻き添えにならなかったかもしれない。

一つの不幸な事件に関わった、五人の人間の人生の裏と表。

江木の姿が現場で確認されなかった時点で、分かってはいた。

母親の最後の叫びが、この物語のすべてだと思った。

他者が他者の人生の関わってしまう物語、「乱反射」もすごかったけど、「灰色の虹」も書き切ったね〜。

posted by じゃじゃまま at 22:14| 神奈川 ☔| Comment(5) | TrackBack(4) | 貫井徳郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ほんとうに書き切りましたよね〜。
渾身の一冊だと思います。
タイトルも物語をよく表していますね。
読後感もどんよりだけれど
読み切った!という感じです。
Posted by ふらっと at 2011年05月30日 06:31
こんばんは。
ふらっとさんのおっしゃる「読み切った!」感わかります。
じゃじゃままさんのレビューを読んであの時の「読み切った感」を思い出しました。
Posted by なな at 2011年05月30日 22:35
ふらっとさんへ
読み切ったし、貫井さんも書いた!!って感じでしょうね。貫井さんはこの手の作品得意ですよね、だからお手の物で書き切った、よりはまた書いたぞ〜!!って感じ?

ななさんへ
やってもないのに心が折れちゃうって、実際にもそんな冤罪事件ありましたよね。
でも確かに、一度認めてしまうと、身近な人でも離れていってしまう哀しい現実ってあるんでしょうね。身につまされる物語でした。
Posted by じゃじゃまま at 2011年06月07日 10:14
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