2012年03月19日

ばくりや 乾ルカ著。

≪★★★≫

自分の能力を誰かの能力と交換できるという不思議なチラシ<ばくりや>。自分のそれら能力によって人生の貧乏くじを引いたと思っている彼らは、導かれるようにその店を訪れる。彼らの顛末は・・・。

「逃げて、逃げた先に」・・・ やたらと女性にもてる男、三波は洋子から逃げるために<ばくりや>を訪れる。替わりに手に入れた能力は、包丁研ぎと次にその包丁が切るものが見える能力だった。客として洋子と再会し、その包丁に見えたものは・・・自分の顔だった。

「雨が落ちてくる」・・・ 行く先々で悪天候に追いかけられる永井賢介は市内から出ることができない。まるでその地に縛られるかのように。<ばくりや>を訪ね、替わりに手に入れた能力は大食いだった。その時、ちょうど大食いタレント出身の俳優が乗っていた飛行機が悪天候により消息を絶った。

「みんな、あいのせい」・・・ 会社を倒産させてしまう藍川。どんな企業も、公務員になろうとも倒産させてしまう。<ばくりや>のチラシに導かれ替わりに手に入れた能力は動物に寵愛される能力であった。動物園に就職し、これが天職だと有頂天になる藍川だが、オランウータンのアイコに愛されすぎて・・・。

「狙いどおりには」・・・ 剛速球が売りでドラフト一位で入団した吉良洋行だったが、いまや戦力外通告。そもそもプライドだけは高く、人望がまったくない。コーチでさえの声もかからない。あかりとは互いに打算で付き合い始めたが、今では蔑み合っている。そんな二人がよりによって互いの能力を<ばくりや>によって交換してしまったらしい。売れないタレントのあかり始球式で156`で投げる。そして皮肉にも、いやらしくアイスを舐める吉良。

「さよなら、ギューション」・・・ 喉の奥の塊は、どんなときでもどんな場所でも石倉を泣かせてしまう。子どもの頃親が離婚して、どちらにも引き取られなかった石倉は、花卉栽培農家の清田夫妻に引き取られる。義兄の嘉男も優しく、それでも石倉の喉の塊はいつでも石倉を泣かせる。<ばくりや>によって交換した能力は、仕事のできる男に変えてくれたけど、それは石倉にとって心と涙を失う結果になってしまう。

その能力で評価された仕事は、義兄の、そして自分の実家を立ち退きさせてしまうことになる。石倉の結婚式のために義兄が心を込めて栽培していたカーネーション。失火による義兄の死。石倉は泣けるのか。

これは大号泣だった。それまで残酷で皮肉な展開ばかりだったので、そろそろ違うパターンが読みたいなと思っていた矢先の、まさかの大号泣。

「ついてなくもない」・・・ 間が悪いのぞみ。会社の人々の逢引の場に遭遇するのはいつものこと。生まれる時ですら、父の出張の時に限ってで、それにより父は出世コースから外れ、早くに亡くなる。好きな子の前では吐いてしまい見知らぬ女性のスーツを汚し、そして女手一つで育ててくれた母の再婚相手との旅行の時も怪我をして台無しにしてしまう。
こんな能力を交換してもらおうと<ばくりや>に行けば一年に一度の定休日。

ついてない、間が悪いと思っていたのぞみだが、実はその逆だった。のぞみのタイミングにより、みんなが救われ、幸せになっていた。心温まる話。

「きりの良いところで」・・・ 柏原はどうにもツキに恵まれているらしい。どこにいっても祝○○人目、と祝福される。ところが本人にとっては重荷でしかない。気の進まない結婚話が進み、<ばくりや>でこのきりのいい能力を捨てたい、と思った柏原だが、やはりどこまでも運命は皮肉なのか。
柏原は<ばくりや>の100人目、50組目の能力移植だった。そしてそれは、柏原と<ばくりや>の男性との時間の交換だった。

今後、どれくらい柏原は<ばくりや>に縛られるんだろう。ゾッとした。

乾氏はうまいな〜。残酷で皮肉な展開ばかりでなく、途中ほろっと泣かせて、そして最後は皮肉で〆る。
期待の作家さんです。


posted by じゃじゃまま at 23:37| 神奈川 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 乾ルカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは〜。
乾ルカさん、初読みでしたがおもしろかったですね。
私もさよならギュレーションには、ばっちり泣かされました。
1編1編もおもしろいですが、短編の編成も絶妙ですよね。この並びだからこそいいという。
ずっと気になっていただけに読めてよかったですが、この他にもまだまだたくさん本を出されていたんですね。
これから読んでいくのが楽しみです。
Posted by yoco at 2015年03月08日 17:04
yocoさん、こんにちは。
まったくスルーして、ご無沙汰してしまってすみません。
乾ルカさんは「メグル」が衝撃的というか、すごい物語でした!一番です。
Posted by じゃじゃまま at 2015年04月09日 15:48
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