2012年08月30日

水の柩 道尾秀介著。

《★★★》


ある観光地。次々と旅館が経営難になっていくその町で、老舗旅館の息子、逸夫の母のいくと、そして同級生、敦子はある秘密を抱えて生きている。
いくが隠したい過去、その秘密に気付いてしまった逸夫。同級生の敦子が変えたい過去とすべてを知った逸夫、三人の《生きる》物語。
逸夫は二人の悲しい過去を、葬るためか、生まれ変わるためか、かつて祖母が苦しい生活をして、悲しい思い出しかないあの村へ、ダムの底に沈んでしまった村へと向かう。
三人が投げ込んだ<人形>は、彼らの思いを胸に水の底へと沈んでいく。

道尾氏の伏線などまったく気にせず、物語に没頭した。まるで敦子が亡き者のような思わせぶりな書き方には若干ムッとしたけど、なかなか重いテーマだったように思う。
ずっといじめられ続けてきた敦子。タイムカプセルにはいじめた人たちへの恨み言を書き綴ったが、自殺した後彼女たちに殺されたことになるのが嫌で、手紙を入れ替えることを思いつく。
そこにはまるでいじめなどなかったようなことを書けば、それがそのまま自分の過去になる。
嘘は、ついているうちに、だんだんどそれが本当にことになってしまう、そう言ったのは祖母のいく。

いくは裕福な家に生まれ、贅沢な家に嫌気がさし普通の生活がしたくて家を飛び出してきた。仲居として働くうちに祖父に見初められ女将となった。あれやこれやと口うるさいいくだったが、ある日旅館の宿泊客によって仮面が剥がれてしまう。
貧しい生まれで、父と唯一の友達のお母さんとの間の大人の事情により、悲しい事件が起こってしまう。幼馴染みの死、父の死、すべてを失った祖母が生きていくためについた嘘。

死ぬための嘘と生きていくための嘘。

最近の道尾氏はこんな感じが多いかな。

いくがずっと嘘をついていて、だんだんとそれが本当のようになってしまう、っていうのはそうなのかな。やっぱりどんなに嘘をつこうが、思い込もうとしても苦しいような気がするけど。
ただ時が経つにつれ、そんな気になってしまうってことはあるけど。それでもやっぱり過去は変えられないな、私には。

すべてを息子や孫の逸夫に打ち明けて、重荷をやっと下ろしたいくが呆けてしまうのはある意味高齢だもん、仕方ないよね。でもずっと気負って生きてきたのかな、と思うと素直に可哀想だと思う。

タイトルが、本当にうまい。

posted by じゃじゃまま at 12:49| 神奈川 | Comment(2) | TrackBack(1) | 道尾秀介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
嘘をついているとだんだんそれがほんとうのことのようになる。
言霊のようなものでしょうか。
自分で少しずつ思い込むっていうことはあるかもしれませんね。
それにしても、おばあちゃんのは哀しすぎます。

道尾さん、この路線で行くのでしょうか。
Posted by ふらっと at 2012年08月30日 16:59
ふらっとさんへ
過去は変えられないけど、でも確かにだんだんそんな気がしてくることってありますよね。
隠しておきたい過去を孫に知られてしまった時のおばあちゃんも可哀相でした。
Posted by じゃじゃまま at 2012年08月30日 22:32
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Tracked: 2012-08-30 17:01
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