2013年04月19日

微笑む人 貫井徳郎著。

《★★★★☆》


川で水難事故が起きた。川で女性と子供が溺れ、それを救助した男性。最初は、それだけだった。
ところが、この事故が世間を揺るがす大事件になる。

亡くなったのは母と幼い娘。救助したのは、夫であり、父である仁藤俊実。
そのまま水難事故として処理されようとしたその時、一本の目撃証言の電話があり、そして、葬儀場の都合で葬儀が遅れ、それが完全犯罪を防いだ。
仁藤による妻と子供の殺害は、誰にも理解のできない動機で、ある小説家が仁藤の素顔に迫るためルポの記録形式の小説である。

まるで私が衝撃を受けた「愚行録」の再来か!と読み始めてすぐに興奮を覚えた。
インタビューで語られる仁藤の人物像は、まさか本の置き場所に困ったから妻と子を殺した男とは思えない、善人で人格者で、誰しもが仁藤の犯罪を認めない。
警察の冤罪だ、冤罪でなければなにかよっぽどの理由があったのか。でもまさか、考えられない、みな口を揃えて証言する。

そして、物語の語り手である作家は、やがてポツリポツリと仁藤の仮面を感じた人々からの証言を得る。

仁藤の裏の顔。確かに妻と子を手にかけたのだから、みなが言うように「いい人」であるはずがない。
そう読者も思ってるから、いよいよ裏の顔の証言が出てくると、興奮して手が止まらない。
そうでしょ、そうでしょ、そうでしょうとも〜〜って。
私も「いい人」ぶった善人の裏の顔をわりと早く察知する方なので、なんか分かる気がして、絶対いるよね〜って。

ただこの仁藤は、すごい。
貫井氏の小説では、結局のところの仁藤の本性は明かされてない。ポツポツと裏の顔を証言するエピソードを盛り込み、さあ、結局はどっちを信じる?証拠はないんだよ、と委ねながら、でも仁藤=悪人の方に誘導されてる。

でも私は仁藤=悪人説で間違いない。

人の本性というか、裏の顔を書かせたダークな物語は、さすが貫井氏って思う。
ただ、最後の最後に出てきた、昔の同級生のエピソードで失速したかな。
そこを読んでいるときに、仁藤の人物像を暴いていた今までの興奮がすっかり冷めて、元同級生の話が嘘か真か、あの人物の目的は?って、すっかり本来の目的を忘れていて、肩すかしな気分。

そういえば「愚行録」も最後の最後で失速したんだよね、興奮度が。

あの元警官の話で仁藤の本性は十分だよね。絶対悪人。
会社の後輩につぶやいた「死ねよ」も十分頷けるし、そうだそうだ、あの先輩も絶対に仁藤だ!
ああ、なんで失速感を感じたのか。絶対仁藤は悪人なのに、証拠がなくて裁けないこのもどかしさが、ちぇって思うのかも。

一人の人間の善し悪しも、自分がどっちの面を見ているかで変わるものだけど、それ以上にこの小説の仁藤、物語は興味深かった。


posted by じゃじゃまま at 16:59| 神奈川 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 貫井徳郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
読者をいつまでももやもやさせることにかけては、貫井さんの右に出る人はいないかも、と思ってしまいます。
1+1=2、とならない現実を思い知らされるようでもあります。
そうわかっていても、はっきり白黒つけてほしい気持ちも消えません。^^;
もうーー、貫井さんったらーーー!
という感じです。
Posted by ふらっと at 2013年04月19日 18:46
ふらっとさんへ
貫井さんはなかなかのやり手ですよね〜。(笑)
インタビューによってその人の裏も表も浮き彫りにさせてしまう、そのリアルさに絶対モデルいるよな〜と思いながら読んでいます。
Posted by じゃじゃまま at 2013年04月22日 17:21
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