2013年10月16日

いちばん長い夜に 乃南アサ著。

《★★★★》


このシリーズもとうとうラスト。
前科者同士の、綾香と芭子。「刑務所」(あそこ)で知り合った二人が、天涯孤独の身同士肩を寄せ合って、谷中でつつましく生き直そうという物語。
綾香には、パン職人になっていつか自分の店を持ちたいという夢があった。
芭子は、とにかくいつ誰かにばれてしまうかも、とビクビクしていた生き方から、ひょんなことから始めたペットの洋服作りが軌道に乗り始め、ようやく夢を持ち始めた・・・。

そんな二人の、決着。

「犬も歩けば」・・・ 芭子が老舗和菓子屋の新妻からペットの洋服を注文されたことから始まる、家族間のバトル。老舗和菓子屋の三男夫婦は、なにかと親や長男夫婦と折り合いが悪く、ペットを勝手に捨てられてとうとうバトルはいくところまで行ってしまった!!

「銀杏日和」・・・ 芭子のご近所の老人を助けたことから、綾香とその老人との間に交流ができた。その老人からごみ屋敷の話を聞いた綾香は、少しでも役に立ちたいとごみ捨てを買って出るが、なんとそのごみ屋敷の住人は、どうやら綾香に想いを寄せているらしいお店のお客さんだった。これがなんとも好きになれない変なおじさんで・・・。きっぱり断る綾香のセリフの中に、綾香の一人で生きていくという決意を感じ取った芭子は、寂しい気持ちになる。

「その日にかぎって」・・・ 家庭内暴力の末に、我が子の命を守るために元夫を殺害した綾香。その罪を背負い、たった一人で生きていく決意をしている綾香のために、なんとか生まれてすぐ手放した子供の行方を捜したいと思い立った芭子。
綾香に内緒で、綾香の故郷仙台で消息を辿る。人の傷をかき回すことになりそうで、ちょっと嫌悪感もあったけど、どうやら綾香の子供は海外に養子に出されたらしい。
芭子がなんとか探り当てた消息、その日は2011年3月11日だった。そう、その日は東日本を、東北を、巨大地震が襲った日だった。綾香に内緒で仙台に来た、その日にかぎって・・・。

「いちばん長い夜」・・・ 綾香に内緒で芭子が仙台に来た日。それは東日本大震災の日だった。なんのつてもない仙台の地で、芭子は、心配しているであろう綾香やセキセイインコのぽっちのために、なんとしても谷中に帰りたかった。
ようやく繋がった電話で、芭子が無意識に押したナンバーは実家だった。罪を犯してから初めて聞く母の声。どんなに天涯孤独と分かっていても、忘れられないんだな。
そんな芭子と、偶然行きの新幹線の中で隣に座っていた男性が再会し、二人で東京を目指す。

「その扉を開けて」・・・ あの大震災を被災地で受けてしまった芭子と、仙台で偶然出会った南君は、その後も連絡を取り合っていた。
綾香は、自分の故郷が被害を受け、自分のできることをしたいと、何度も何度も被災地に自分で作ったパンを差し入れに行っていた。
ある日、芭子は南君が弁護士であることを知る。それは、かつて昏睡強盗をして逮捕され、7年の実刑を受けた芭子にとって、一番会いたくない、一番知られたくない相手だった。それでも気持ちはもう止められない。あれだけ隠し通して、いつかばれたらとビクビクしていた芭子にとって、打ち明けなければいけない最初の相手が、よりによって弁護士なんて。
打ち明け、そのまま泣き明かした芭子の元へ、派出所の高木巡査が「綾香が喧嘩をしている」と飛び込んでくる。なんと、その隣には、昨日別れたままの姿の南君が立っていた。

綾香は、勤めるパン屋でとうとう堪忍袋の緒が切れ、ぶちぎれていた。いつもいつも雑用を押し付け、馬鹿にしてきた年下の先輩職人と、被災地のことで言い合いになっていたのだ。
そう、綾香という人間は、いつでも実は我慢しているのだ。どんなに雑用を押し付けられ辛くても、馬鹿にされてもずっと耐えている。だけど、とうとう爆発するとき、こうやって、思っていたことがすべて噴火するのだ。

綾香と芭子、二人の人生の分かれ道だった。

「こころの振り子」・・・ 正直、今までこのシリーズってそんなに好きじゃなかった。罪を犯した者同士が、こそこそと地域に隠れながら生きている。綾香はすぐに「あそこ」での話をしたがるし、その無神経さに何度苛々したことか。元夫を殺害した罪で服役した綾香と、ホストに貢ぐお金欲しさに昏睡強盗をした芭子が、いつまで肩寄せ合って生きていけるのか。
かたや殺人犯、かたやまだ若い女の子。どちらかというと芭子に早くやり直して欲しかったんだけど、「いちばん長い夜に」の二人は、初めて好感や理解ができた。

綾香には綾香なりの強い決意があって、なにも都合よくこの先も暮らしていこう、なんて甘い気持ちは微塵もなかった。
そんなことに今まで気付かなくてごめんね、綾香。

そして、南君との出会いによって、決して南君のせいじゃないけど、二人は納まるべきところに納まったかなと思う。
芭子は、これからまだまだやり直しのきく若さを持っている。いつまでも綾香と共にではなく、彼女はもう一度人生をやり直すべきなんだ。

綾香も、私が感じていたようなお調子者ではなく、強い信念と決意を持っていた。故郷が受けた傷。そのために、綾香はすべてを打ち明け、受け入れてくれた気仙沼のパン屋さんで修業をするために旅立っていった。

ふさわしい二人の門出ではないだろうか。









posted by じゃじゃまま at 17:12| 神奈川 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 乃南アサ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
シリーズの最後がこういう終わり方でよかったです。
ふたりの気持ちが、内側に向かうばかりではなく、外の世界に少しずつ広がっていくのが目に見えて、やっとこれから何かがはじまりそうに思えてうれしくもありました。
Posted by ふらっと at 2013年10月16日 21:09
ふらっとさんへ
最近、シリーズがいろんな決着を迎えてちょっと寂しい気もしますが、どれもこれでよかったというものばかりですね。
この物語は、いい決着のつけ方でしたね。
Posted by じゃじゃまま at 2013年10月18日 21:47
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