2014年03月23日

夏光 乾ルカ著。

《★★★》

ファンタジー・ホラーというのか。
私は乾氏の作品では「プロメテウスの涙」が断然お勧めで、でも基本的には全部好き。
「夏光」・・・ 戦争中、田舎へ疎開した者たちは、いい待遇を受けていなかった。この物語の少年哲彦も、最初のうちこそ叔母が差別はしなかったが、戦争が長引くにつれ、徐々に居心地の悪いものになっていく。
哲彦と、顔の半分に呪われた痣のある喬史は、いつも村の子供たちのいじめの対象になっていた。それでも哲彦は喬史が好きだった。ある時、喬史の目の中に青い光を発見した哲彦は、その秘密を知った時、自分の運命をも悟る。まったく救いのない哲彦の人生に、切なくなってしまった。

「夜鷹の朝」・・・ 療養するため学校を休学して訪れたある屋敷。そこで青年は不思議な少女に出会う。屋敷の主や奥様には見えない、その少女の秘密とは・・・。聞こえる鳥のさえずりが、少女の悲しい心の叫びだった。

「百焔」・・・ 容姿にコンプレックスのある姉は、美しい妹を妬んでいた。ある時、都会からやって来たお洒落な女の人に、自分の不運を人に移す呪いを教えてもらう。嫉妬で燃え上がった心は、それを実行してしまう。
その呪いのせいなのか、妹は火事で大やけどを負ってしまう。あれほど美しかった妹は、今では姉のコンプレックスになりえないはず、だったのに。妹の心は美しかった。それを知った姉は、初めて妹を心から愛せたのでは。

どれも切ないのに、なんでだろ〜〜〜〜〜。どこか清々しい気持ちでもある。

「は」・・・金魚がどんどん大きくなり、やがては飼い主にも襲いかかる。そんなことってある?
友人がけがをして入院した。退院祝いに駆けつけると、友人自らが料理をふるまい、全部残さず食べろ、という。
不思議に思いながらも食べると、やたらとおいしい、特に白身の魚が。けがの原因を聞くうちに、そのまさかの金魚が、格闘の末どうやら友人の腕を食いちぎった、という。死闘の末、その金魚は冷凍され、今まさに食卓に・・・。そして、食べても食べてもますます空腹になる、友人とその男。いったい、彼らの食欲は金魚の呪いなのか。

「Out of This World」・・・ 少年たちの夏の思い出。父親と息子が越してきた。父親はマジシャンだったという。だけど、大人たちの噂では、どうやらマジックに失敗して東京にいられなくなり親戚を頼って越して来たらしい。少年の体には無数の傷があって、父親に殴られている。
それでも少年には友達がいて、夏休みはやはり宝の日々。ラジオ体操を休んだ少年を、見舞いに行き、遊んだ日々もあった、確かに。
なのに、少年はそれよりも前に父親に殺されていた。少年の、切なる想いが伝わって来て、悲しいのに、やっぱりどこが清々しいんだよね。

「風、檸檬、冬の終わり」・・・ 荒んだ人生を経験してきた女性。若い頃は、父親と共に人身売買の片棒を担いでいた。彼女は、人の感情を匂いで嗅ぎわけることのできる能力を持っている。売られていく少女たちから発する匂い。その中で、たった一人、爽やかな香りの少女がいた。これから売られていくというのに。
それから十数年経ち、罪を償い介護の仕事をするようになった彼女は、恩人からあの時の少女と同じ匂いを嗅いだ。
恩人に問う。「今、なにを考えていましたか?」その答えは、希望や歓びだった。

あの少女は、殺されていく運命の中でも、初めて見る海に希望や幸せを感じていたのだ。

本当に不思議。切ない話ばかりなのに、泣くような悲しさじゃない。どこかに救いや希望があるから。



posted by じゃじゃまま at 16:50| 神奈川 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 乾ルカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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