2014年04月28日

検察側の罪人 雫井脩介著。

《★★★★》

東京地検のベテラン検事・最上毅と同じ刑事部に、教官時代の教え子、沖野啓一郎が配属されてきた。ある日、大田区で老夫婦刺殺事件が起きる。捜査に立ち会った最上は、一人の容疑者の名前に気づいた。すでに時効となった殺人事件の重要参考人と当時目されていた人物だった。男が今回の事件の犯人であるならば、最上は今度こそ法の裁きを受けさせると決意するが、沖野が捜査に疑問を持ちはじめる―。 (「BOOK」データベースより)

最初は誰が主人公で、誰に感情移入していいか分からなかった。冤罪を疑い、過去に殺人事件を犯している松倉の無罪を確信する沖野なのか、かつて寮でお世話になっていた管理人の娘を殺され、その復讐に燃える最上なのか、戸惑いながら読み進めていた。
物語が大きく進むのは、大田区の刺殺事件で真犯人は他にいることに気付きながらも、なんとしても時効になって逃げおおせた松倉に罪をかぶせようとする最上が、とうとう引き返せない決断をしたとき。

罪を犯した松倉にはなんとしても償ってもらう。刺殺事件では冤罪だが、この罪をかぶせることこそ、逃げおおせた松倉に下るべき罰なのではないか、そう最上が決断したとき、最上は検事として許されない行動に出た。
証拠品の隠ぺい、ねつ造、そして真犯人の弓岡の逃亡教唆。

そして決して戻れない道を進んだ最上。

最初はどっちに感情移入するか迷ってたはずなのに、いつの間にか最上と一緒になっていた。
いいんだよ、松倉は過去に少女に暴行し、殺していながら、逃げ切った奴なんだから。確かに、犯していない罪をかぶせられ、決して認めない松倉もお気の毒だったけど、最上の取った行動は、罪人はことごとく罰せられたんだからいいじゃん、沖野が正しいのは分かっていながらも、この物語に限っては、松倉にあのままかぶせて欲しかった。

最上の鉄のような決意。最上と同様、可愛がっていた管理人の娘を殺されたことに憤っているかつての旧友たちにも、松倉の担当であることを明かさず、なんと意思の強い人なんだろう、と。
そうでなくちゃ、検事なんてできないんだろうけど、旧友たちに冷たい奴だ、とか言われても、なにも言わず、たった一人で復讐の炎を燃やしている。

だからこそ、弓岡を殺した容疑がどんどん深まり、状況証拠がどんどん出てきて、とうとう逮捕されてしまった、終盤。
号泣してしまった。
友人の前川が面会に駆け付けたシーンは今読み返しても泣ける。

思い出しても泣ける。

あんなに最上のことを怒っていた記者の水野も、「俺が代わってやりたい」と泣いていた、と。ようやく最上の孤独な決意、自分の人生を賭けて松倉に罪を償わせようとした闘いがみんなに理解してもらえて、泣いた。

そう考えると、人生を賭けて松倉に復讐しようとしたのに、沖野によって阻まれたことが悔やまれる。
でも冤罪は許されない、だけど時効になっても松倉は許せない、深い問いかけをされた小説だった。

検事としての人生を失った最上だけど、得たものは旧友たちの友情や家族の愛情、沖野ですら決して最上のことを責めてはいない。罪人になったけど、私は最上のしたことを認める。

じゃ、一度悪いことをしてしまったら、冤罪だとしても、疑われるようなことしたんだから仕方ないって思うのか、って言われると、違うよね、ってなるんだけど、難しい、深い問いかけ。
でも、松倉に関しては、あのまま刑務所に行けばよかったのに。

雫井氏の小説の中で、これが一番忘れられなくなりそう。




posted by じゃじゃまま at 16:40| 神奈川 | Comment(2) | TrackBack(0) | その他 さ行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
世の中には松倉のようなヤツがきっと一人や二人じゃなくいるのでしょうねぇ。(´〜`;
この事件は松倉にとって理不尽だったかもしれないけれど、全体的にみれば、松倉をさばけないことが理不尽としか思えません。
最上には、どこかで引き返してほしいと思いつつ、それでもこのまま突き進んでもらいたいとも思いながら読んでいました。
Posted by ふらっと at 2014年04月28日 17:14
ふらっとさんへ
本当にね〜〜!!
最上の決断は、おお!そう来るか!と思いつつ、どこかで予感していて、よし!行け!って応援してしまいました。
大田区の老夫妻は冤罪だったけど過去には殺人犯してるんだから、これで帳消しってことでよかったのに。・・・って許されない理屈なんだけど。

今でもラストの面会思い出すとぐっときます、私にとって雫井さんの代表作になりそうです。
Posted by じゃじゃまま at 2014年05月02日 22:06
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