2014年05月14日

沈黙の町で 奥田英朗著。

《★★★★★》

学校で一人の少年が死んだ。2階から転落して・・・。事故なのか、自殺なのか。
死んだ少年の背中には無数の抓られた痕があり、いじめが明らかになる。そして、仲の良かった少年4人が逮捕・補導される。

被害者の名倉少年の家族の想い、加害者とされた少年たちの保護者の想い、加害者少年たちのそれぞれの目線、クラスメイトの目線、名倉少年がどんな生徒だったのかが明かされ、あっちに行ったりこっちに来たりしていた読者の思いも徐々に片方に寄っては、立ち止まったり・・・そんな問題作であった。

地方都市の、有名呉服店の一人息子が死んでしまったとなれば、タイトルの「沈黙の町で」は行く末が想像できてしまい、タイトルに含まれた意味を考えると、なんと恐ろしいことか、と暗い気持ちになってしまった。

そんな想像をしていたけど、読み終わると、もっともっとやるせない気持ちになった。

当初は、お金持ちの気弱な名倉少年がいじめられたというのは安易に想像できてしまい、読者もそのつもりで読んでしまう。だから坂井瑛介の母親がわが子を守ろうとすればするほど、その親ばかぶりに腹が立ったり。
これが、瑛介目線や健太目線になると、俄然景色が変わってくる。

教師や刑事たち、そして、本当にこんな奴いそうっていう堀田弁護士が端々で語る、中学生の現実や、加害者、被害者の立場を私たちは読まされて、その都度、はっとする。
特に、堀田弁護士が語るいじめの被害者、加害者の親の気持ちは、なるほどな〜と嫌な奴なんだけど、納得させられた。

子供を亡くした親にとっては、子供になにが起こったのか事実を知りたい、でもその事実が子供や自分たちにとって辛いものだと受け入れられない・・・それはそうだと思う。
名倉少年の母親は一番辛いだろう。たとえ自分の息子に友達とうまくいかない性質があったとしても、それでも受け入れがたいだろうし、でもそんな息子にしてしまった自分たちにも思い当たる。

加害者とされた少年の母親も、首謀者は他の誰かで我が子は流されただけ、と思いたい。
ましてや調べが進むと、一番疑われていた瑛介の男気が判明して、母親の百合にしてみれば名倉家に一言言いたいよね〜。
ここでも堀田弁護士が「時が過ぎるまで頭を低くして待って」って嫌な奴っぽいのに言うことはごもっともなことばかり。
検事や刑事たちも、少年たちが何か隠してることを察し、黙っているのは男気なんかじゃない、そのせいでみんなが迷惑するって言いつつも、なんというか、子供たちの世界の正義やルールを、すっかり大人の私も思い出した。

あの年頃の正義やルールって独特なものだったな、と。そう、まだ子供だから・・・。

よく出来上がった物語だと思う。
ニュースになるいじめも、いじめる側、いじめられる側、この二つにくっきりと分かれるものばかりでもなく、子供たちの事情もあるんだろうな、と思い馳せ、そしてそのことに傷つく。

一体誰が悪いのか。
いろんな連鎖なんだろう。名倉少年の家が裕福じゃなかったら、親が買い与えなければ、名倉少年ももう少し空気を読めれば・・・。
名倉少年の気持ちも少し分かる。みんなが自分のこと馬鹿にしていたら、平気な顔をしていることでプライドを保てていたのかもしれない。
でもどこかやっぱりずるい子だったんだろうな、すぐにちくったり。

いじめは100%悪いというけれど、私は99%だと思う。残りの1%で、なにが周りをそうさせるのか考えてもいいのではないかというのが私の持論だけれど、やっぱりそうだよな、とこの物語で改めて思った。

ラストは、結構愕然とした。ああ、そういうことか、と。
その後は明らかになっていないけれど、刑事や検察の目はくぐれないと思うよ。
それに、やっぱり誰も知らなくても、自分だけは知っているんだから、この先自分も欺きながら生きていくのかな。

中学で起きたいじめを、両面からよく書かれた小説だと思う。




posted by じゃじゃまま at 18:05| 神奈川 ☁| Comment(2) | TrackBack(1) | 奥田英朗 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いじめの芽って、なんて些細でちっぽけなことなんだろう、とあっけにとられる心地がします。
しかも、それが人ひとりの命にかかわることまで育ってしまうまで、摘み取ることができないなんて。
客観的に見るとそう思うけれど、渦中にあると全く違う精神状態になるのだろうな、とやり切れない思いになります。
だれもが、紙一重のところにいるような気がして、背筋が寒くなります。
Posted by ふらっと at 2014年05月14日 18:31
ふらっとさんへ
小学校の時にいじめられていた藤田君が今度は名倉君をいじめる・・・常に被害者と加害者も紙一重で、健太たちの守る側から責める側の変化も微妙な変化で、そういう心理は誰もが持っていることなんですよね。
両者の側からもよく書けていた、と私の中では奥田さんの衝撃作です。
Posted by じゃじゃまま at 2014年05月17日 21:23
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/397030218
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック

沈黙の町で*奥田英朗
Excerpt: 沈黙の町で(2013/02/07)奥田英朗商品詳細を見る 中学二年生の名倉祐一が部室の屋上から転落し、死亡した。屋上には五人の足跡が残されていた。事故か?自殺か?それとも…。やがて祐一がいじめを受け..
Weblog: +++ こんな一冊 +++
Tracked: 2014-05-14 18:33
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。