2014年06月26日

悪医 久坂部羊著。

《★★★★》

一人のがん患者と、一人の外科医。
治療法はもうない、あとは余命を後悔のないように、と治療を拒否される患者と、これ以上の治療は患者の命を縮めるだけと、治療を拒否する外科医。

もう死ねと言ってるのか!と激昂する患者、小仲。自分たちは患者の命を救うために治療してきた。その治療がもう患者の病を治すためではなく、苦しみだけを与えるのなら、治療をしないことが患者のため、と思って告げた外科医、森川。

両者の言い分、気持ちはどちらも切実で、ものすごく考えさせられる小説だった。
最初は、医師が薬を使って患者を殺したりする話なのかと思ってたけど、実はすごく重いテーマだったんじゃないかと。

自分ががん患者なら、素直に受け入れるという森川医師は、それでも治してくれ、治療してくれという末期のがん患者に閉口する。
森川の妻は、夫に同調するでもなく、淡々と患者の立場に立って森川に助言するが、医師としての森川はその気持ちが分からない。

でもこの外科医は、筆者自身かもしれないけど、真摯に受け止め、苦悩する。
患者のために治療はしないのか、患者のために苦しい治療を続けるのか・・・。

その答えは出ないようにも思えた。どこまでいっても平行線だから。

だけど、森川医師は答えを見つけたんじゃないか。
小仲が、死の間際に森川に託したメッセージの中に。

「患者は希望は病気が治る、ということだけじゃない。医者が見離さないでいてくれることが、励みになる。そしてそれが、死への勇気へつながる」と。

私自身もどっちが正しいのだろう、答えなんてあるんだろうか、って分からなかったけど、最後に答えを見つけた。

そうだ、患者は医者に病気を治してもらいたい、でもそれだけじゃないんだ、末期だからもう治療はしない、というのではなく、それでも懸命に医者が尽くしてくれる、そうすればたとえ病は治らなくても絶望はしないんだ、って。

二人の末期がん患者。治療はもうない、と言われ、小仲は自分でいろいろな病院を周るが、結局どこも治療法はなかった。ホスピスに入り、心の準備ができるまでは紆余曲折、波乱万丈だったけど、最期は心安らかに受け入れ旅立っていった。

もう一人の患者は、最後まで森川の話に耳を貸さず、薬に頼り、副作用と病気の進行に苦しみながらそれでも治療を懇願してやってきた。
どちらも治らないだろう、どちらの死が正しいのか、それもそれぞれだと思う。

でも互いに、自分の意思で決めた選択だから、小仲の、副作用で苦しもうがなんだろうが、治療をしているときは病と闘ってるんだ、という、やることはすべてやったという気持ちで、最期を迎えられるのではないのか。

正しい、とかそういうことじゃなく、心安らかか、闘いながらか、どちらの最期を選ぶのか、ってことなのかもしれない。

今まで考えもしなかった視点で、考えさせられた作品だった。


posted by じゃじゃまま at 12:24| 神奈川 ☁| Comment(2) | TrackBack(1) | その他 か行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ほんとうに考えさせられる一冊でした。
そしていろいろ考えて、いまはあれこれ言えても、実際にその立場になったときにはすべてひっくり返るかもしれない、とも思いました。
でも、最期まで医師が寄り添っていてくれる、共に闘っていてくれる、という心強さが力になるのだろうな、と思わされますね。
重く深い一冊でした。
Posted by ふらっと at 2014年06月26日 18:37
ふらっとさんへ
本当に。今はなんとでも言えますけど、受け入れる勇気実際あるかどうか。
素晴らしい医師なんてなかなか巡り合えないかもしれないですけど、最期まで、どうか最期まで見捨てないで欲しいと思いました。

答え出ないかと思いましたけど、小仲の言うとおりですね。
Posted by じゃじゃまま at 2014年06月28日 15:06
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