2015年03月26日

一匹羊 山本幸久著。

《★★★★》

様々な日常の、ほっこりとする短編小説。
「狼なんてこわくない」・・・ 遠距離恋愛している高校生が、お金を貯めて金沢に越してしまった大好きな彼のところへ向かう、バスの中での話。隣に座ったのは、恐らくお水系の派手なお姉さん。その会話や、麗子の心のつぶやきが面白い。
そして、バスが到着して、待ち受けていた男の子の言葉も、これまたいいよね!!
続きが読みたかったのに、連作ではなかったのが残念。

「夜中に柴葉漬」・・・ 居酒屋でバイトする青年と、男手一つで彼を育てた父親。息子は父親をうっすら馬鹿にしてるようで、ふいにバイト先に来た父親の意外な社交性を見てなにかが変わったみたいで、嬉しい。
自由人を気取っているトリイに「君はこの中で一番不自由そうに見える」と言ったお父さん。息子には冴えない親父に映っていたかもしれないけど、このお父さん、なかなかできる男だ。

「野和田さん家のツグヲさん」・・・ 隣家の少年から見てツグヲさんは、30歳過ぎても働きもせずお小遣いまでもらっちゃって、数年に一度は誕生日プレゼントまでもらってる困った大人だ。「ぼく」の未来はこの町にはなくて、下手したらツグヲさんみたいになっちゃう、と本気で嫌がる「ぼく」。
そんな「ぼく」と、事故に遭ったお父さんの代理でツグヲさんが送迎してくれることになった二人の車中の会話と、心のぼやきが面白い。
ツグヲさんの悪友たちがなにやら悪だくみをしていて、それを阻止したツグヲさんの意外な一面を見て、「ぼく」が町を少し好きになったのも嬉しい。

「感じてサンバ」・・・ 南のどこかの島のキャバクラで働くミナコ。そのお店で働く女の子たちは島には居着かない。ちょっとすればまたどこかへ行ってしまう。ミナコもそんな一人のはずだったけど、帰る場所のないミナコは、だんだん島が好きになっていく。
ミナコの過去、なんか気になるけど、この島で幸せになって欲しいもんだ。

「どきどき団」・・・ 亭主関白な夫は、妻がボランティアで子供たちに昔遊びを教えているのが気に食わない。
今までは貞淑な妻だったけど、徐々に強くなっていくこのおばあちゃんの、これまた心のつぶやきが面白い。
山本氏が書くと、亭主関白な嫌な夫も、どこか愛嬌があるから憎めない。

「テディベアの恩返し」・・・ 他人へのリクルート活動を支援する企業に勤める鮒村の会社に、元プロ野球選手の高校の同級生がやって来る。どこか偉そうな態度は昔も引退して二年経つ今も変わらない。
そんな熊田に腰の引けていた鮒村が、帰りの電車で、熊田から聞かされたある話。熊田にも弱音があって、そしてそんな熊田が昔、自分を目標としていたという事実。平凡な鮒村が一歩踏み出しそうな物語。

「踊り場で踊る」・・・ 家具売り場で働く鮎川は、恋人なし、パワースポットめぐりが生きる源となっている。
ある日曜日、元彼が鮎川の社員割引を目的として、婚約者と来ることになり、ちょっと気分悪い中、それでも鮎川はターゲットを決め、家具のセールスに熱心だ。
いつもと変わりない日常、そこへ迷子のおばあさんがやって来て、鮎川を誰かと勘違いしている。
おばあさんの記憶の中で、きっと楽しかったであろう女学校時代の友達たちが今も目の前にいて、嬉しそうに話しかける。
おばあさんが鮎川を誰かと間違えて話しかけてるけど、今、鮎川はおばあさんのお友達のタキちゃんと重なって、タキちゃんのように?タキちゃんの代わりに?よし!と気合を入れ直して、またいつもの日常に立ち向かっていく。そのリセットさが心地よかった。

「一匹羊」・・・ ある縫製工場で働く40歳過ぎの大神。昔は自分の意見を押し通す気概もあったけど、徐々に世の中の流れに逆らうよりも、黙って流れていく方が賢いと悟った40代。
職場体験に来た中学生からの質問で、そんな自分を見つめ直し、やる気を出す。

どれもこれも、ささいなきっかけで、ちょっとした一歩を踏み出す、ほっこりとする物語ばかり。
山本氏の小説は、うっかり電車や人目があるところで読むと、危ない危ない。
一人ニヤニヤする危ない人になってしまうからね。


posted by じゃじゃまま at 16:42| 神奈川 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 山本幸久 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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