2015年04月09日

願いながら、祈りながら 乾ルカ著。

《★★★★》

北海道、生田羽村生田羽中学校の分校に赴任してきた林。
そして分校全生徒5人の子供たち。なんでも揃う都会の学校とは違う、厳しい環境の中で、迷い、悩み、自らの存在を考え、「願いながら、祈りながら」なにかを見つけ、成長していく彼らのそれぞれの物語。

第一章 始業前 ・・・ 自分を振った彼女を見返すために、こんなところで教員している暇はないと、赴任当初から持て余し気味の林。そんな林の心を見透かすように、三年生の女子生徒にやる気のないことを言われ、下宿先の老医師から「あなたの人生を時間に換えればこの一年はたったの20分。その20分を子供たちのために先生になってください」、そんな言葉が林を変える。

第二章 ひとりのせいで ・・・ 生田羽分校の唯一の三年生である弥生は、修学旅行のために生田羽中学校の生徒たちと合流する。弥生を含めて5人。静かで密かな意地悪は、弥生を孤独にさせていく。
たった数日のために、普段違う学校で学んでいる子が混じってもすぐには受け入れられない、そんなことが大人には見えないのだろうか。これなら本当、弥生は一人で旅行に行った方がいいと思った。
確かに、彼女たちの言い分も然り。せっかくの旅行が、たった一人のせいで台無し、って。
弥生が頼りにしていた一つ上の友人も、隣町の高校へ進学してからはもう弥生を振り向いてくれない。
そのことで、とことん一人になってやる、と弥生を決意させた。そしてこの決意が弥生をより強くさせたのだ。

第三章 特別の条件 ・・・ みなみはいつも普通。容姿も勉強もスポーツも、音楽も、すべていつも自分より上に誰かいる。私はなんのために生まれてきたのだろう、どんな存在価値があるのだろう、そんな疑問を抱えている。そんなみなみが見つけたのは、自分には霊感がある、ということ。祖父の命日に祖父の存在を感じたことにより、みなみはそこへ存在価値を見つけた。
自分を誇大評価したい欲求は誰しもあると思う。でも、そんなみなみの浅はかさを、同級生の学に鋭く指摘され、みなみはなにものでもない自分を認める。

第四章 闇を裂くもの ・・・ 憲太と学は大事な仲間だ。学の両親が畑作をするために東京から移住してきた時、その指導や世話をしたのが憲太の一家で、二人は大切な友達になった。子供時代を二人で過ごしてきた。
ところが学が道内の塾のテストで、村の神童と呼ばれるようになった辺りから、学はつれなくなってきた。
それでも憲太の気持ちは変わらない。学を大事に思っている。そんな二人が星空を見る会で、気持ちをぶつけ合う。
成績が伸びないことを、こんな村に越してきたせいだ、という学に、環境のせいにするな、と憲太は言う。
二人の思い出までも否定されたみたいで辛いよね。
本当は学だって分かってたとは思うんだ。もっと大事なこと、友達って大事だなってそんな素直な気持ちがあれば、学はまた頑張れる。

第五章 いつかくるとき ・・・ 神童と呼ばれている学は、その場の誤魔化しなどしない。
だからみなみが、ない霊感を自慢げに言うのも指摘した。
弥生に好意を寄せている生田羽中学校の生徒へも、弥生の拒絶の言葉を言おうとした。
ところが、いつも嘘ばかりついている亮介が、また嘘をついた。「ありがとうって言ってました」と。
生田羽中学校の少年は安堵の目になった。それなのに、学は追いかけて真実を告げた。
嘘の期待を持たせることは、いつか分かった時より残酷だと思わないかい?それが学の気持ちだ。
いつかくるときのために真実を告げるのもある意味優しさではあるけれど、私は亮介の嘘の方がより優しいと思う。

第六章 きらめきの名前 ・・・ 亮介の一家も都会から畑作をするために移住してきた一家だ。ところが亮介には嘘をつくと言う癖がある。すぐにその場の嘘をつく。後になれば分かってしまうのに、それでもつく。
吹雪のために学校に足止めされた日、憲太が「お前嘘つくじゃん?だったらなんか作り話してくれよ」と。
そこで語られた亮介の話。病気で長く生きられない子供が、病室で見た一枚の風景写真。母親は「そこが気に入ったの?」と聞く。嘘だったけど、聞かれたから「うん」と答えた子供。子供が気に入った景色のために、親はその村へ移住することを決めたのだ。
なぜ、そんな嘘をつくのか。
どんな嘘でも、その場で相手が喜んでくれるなら、その子にはいつか嘘がばれるときが来ることはないから、と。吹雪の中、亮介が語るその物語は、いつもの嘘なのか、それとも真実の・・・。
吹雪が去った後、林が亮介を窓辺に呼ぶ。そこから見える景色は、物語の少年が写真で見た風景。亮介は、このためにこの村に来たんだ・・・、と。

第七章 これからはじまる ・・・ 卒業式。弥生は、一人この村から旅立つ。今までの慣例に逆らい、たった一人で遠い都会への高校へ進学する。それが弥生の決意だ。清々しいくらい自分の足で立っている少女。15歳でその決意ができた幸運を私は祝福したい。
そして吹雪の後で倒れ、そのまま東京の病院へ転院していった亮介から手紙が来た。「元気になってます。ディズニーランドへ行ってきました」という内容。そして日付は平成23年3月11日。そう、あの日なのだ。亮介は、とうとういつかばれる嘘、を身を持って体験することができた。亮介にも、いつか来る時があったんだ、と。
そして、生田羽分校は閉校になる。弥生が卒業し、亮介もいない。生徒は三人しか残らない。元々林が赴任してきた時から一年後の閉校は決まっていたのだ。
それぞれの春へ、「願いながら、祈りながら」歩き出す、素晴らしい物語。




posted by じゃじゃまま at 12:28| 神奈川 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 乾ルカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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