2014年08月21日

冬芽の人 大沢在昌著。

《★★》

大沢氏ってハードボイルド作家の位置づけだったのにな。
ハードボイルドというよりも、恋愛小説にしか思えなかった。
ある事件で起こった事故がきっかけで、先輩刑事、前田を死なせてしまい、その妻からは不倫を疑われ、弁解する機会もないまま、責任を感じてOLに転職した元女刑事、しずり。
前田の墓参りで、前田の前妻との間に生まれた息子と出会ったしずりは、前田が死んだ事件を語るうちに、やがて事故だと思われていたものが事件であったのでは?と疑念を持ち始め、前田の息子、岬人と共に真相に近づいていく。

そもそもしずりと岬人は15歳以上も歳が離れてるのに、どうやらすっごい美人で、歳を感じさせないくらい大学生の岬人を夢中にさせてしまうらしい。
職場の上司からも、前田からも好意を持たれていたしずり、そんなヒロイン像・・・好きだよね〜。
ま、ブスよりいいけど。

で、まさかまさかのどんでん返しの結末で、そんなとこに黒幕がいるのって気付かないよね〜。
しかも、前田って悪徳刑事だったわけだし。そんなの、あり?って思うくらい現実味ないけど。
最初の事故に見せかけた殺人も、これが人通りの少ない道なら狙いやすいだろうけど、交通量の多い道路で、そんなにうまく事故に見せかけて轢けるかね?って思うし。

事件よりも、しずりと岬人の恋愛小説を読まされてるみたいだった。


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2014年08月12日

怒り 上下巻 吉田修一著。

《★★★☆》

八王子の住宅街で起きた夫婦惨殺事件。犯人、山神一也は殺害した後、六時間も現場に留まり、冷蔵庫のモノを食べたり、シャワーを浴びたりと、異常な行動をしている。そして殺害現場には「怒」の血文字。
そして一年経っても逃亡を続け、警察はテレビの公開捜査で情報を求める。

殺人事件から一年後の、房総半島の港町では、洋平が家出をした娘愛子を歌舞伎町のソープランドで働いてると連絡を受け、迎えに行く。
その港町に、真面目だけど素姓の知れない田代という男がやって来て、徐々に愛子と親しくなっていく。

大手通信会社で働くゲイの優馬は、「発展場」で知り合った直人を強引に犯し、なぜかそのまま連れ帰り、居候させる。
まったく自分のことを語らない直人。行きずりのつもりが、余命わずかの母親や兄夫婦にも会わせ、徐々に自分の生活圏内に入り込んだ直人。

男にだらしのない母親のせいで、何度も転校を繰り返す泉。同級生の父親とそういう仲になり、夜逃げ同然で沖縄に引っ越すことになった。
島では友人もできた泉だが、同級生の辰哉に連れて行ってもらった無人島で、そこでこっそり暮らす田中と出会う。

それぞれの場所で存在する、三人の謎めいた男。
房総半島、東京、沖縄の人々が、繋がることはない。それぞれの場所で存在する、得体の知れない三人の中に、逃亡犯がいるかもしれない。それぞれの人間模様の中で、一体誰が正体を現すのか。
田代も、直人も、逃亡犯と同じ顔に三つのほくろがあって、左利き。

みんな怪しくて、ドキドキが止まらない。一体誰なんだ?逃亡犯は??

身近にいる者が、素姓の知れない隣人を疑い始め、洋平が、優馬が、それを口にした途端、田代も、直人も姿を消す。

辰哉と沖縄本島に遊びに来た帰り、米兵に襲われる泉。絶対に口外しないで、という泉との約束を守る辰哉。
田中が暮らす無人島の小屋で、「怒」の文字を発見する泉。その文字を見た瞬間、なにかを感じた泉。
ここからは、もう田中の正体がどんどん分かって来て、怖かった。
こいつか!!!と思いながらも、一体いつ泉や辰哉が気付くんだろう?そして、公開捜査の甲斐もあって、山神が潜伏していた建設会社から通報があり、指紋が一致する。

突然キレるという元同僚の証言。そして、新たな情報が寄せられ、その証言で、作り話をしているようで、実は八王子の事件を語っていることを察した捜査員は、その男こそが山神であると確信し、沖縄に急行する。
捜査員の手が山神に届くのが先か、泉たちが気付くのが先か。

田中が暮らす小屋で、「怒」の文字を発見した泉。そして、その小屋の裏に泉がレイプされていることを嘲笑った落書きを見てしまった辰哉。
二人は、それぞれが、逃亡犯とは気付かずに、田中の本性を見抜いた。

そして辰哉の復讐と、捜査員、どちらの手が先に届くか。

この小説は、なぜ山神が犯行に及んだのか、その内面まではえぐりださない。
ただ、今まで普通に接していた隣人が、もしや逃亡犯では?と疑い始めていく変化がうまい。
しかも、三人三様に、怪しいし。

山神ではなかった直人と田代だけど、それぞれに事情があって、関わった人々もみんな影響されていく。
面白かった。





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2014年08月03日

ワンナイト 大島真寿美著。

《★★★☆》

大島ワールドの平均年齢が、やっぱり上がっている。
前は学生だったのが、最近では大人、30〜40代の女性になっている。
ま、いいか。

ステーキハウスを経営する佐藤夫妻が、結婚したい常連客たちの願いを叶えるべく、ついでにまるで女を捨てている夫の妹、歩にもなんとか縁づいて欲しいと、真剣な合コンを企画する。
そこに集まった男女6人の、それぞれの連作集。

面白かった。
売れない小説を書き、好きな時間に起きて寝て、自堕落的な生活をしていた歩にも、実は出会いがあった。
戸倉というプログラマー。
この戸倉と共に、この合コンに社長の命令で出ることになっていた平泉は、実はゲイで、合コン当日逃げ出した。
そして、ずっと戸倉に恋をしていた。

一番結婚願望の強かった宮本さなえは、米山と言う、平泉のピンチヒッターに狙いを定め、本性を隠し、近づいていたが、一向に距離が縮まらず、焦っていた。
クリスマスイブにも米山に連絡が取れず、仕方なしに誘った、もう一人の参加者、小野に声をかけると、その日、小野から結婚を前提に交際を申し込まれる。

そして、二人はめでたくゴールイン。

さなえから逃げていた米山は、実は既婚者で、さなえに手を出してはいけないと念じつつ、大阪へ単身赴任している妻との距離に疑問を持ち始めていた。
とうとう、妻と離婚することになり、身軽になってさなえに連絡をしようとしたら、電話番号が変わっていた。

ステーキハウスの佐藤夫妻にそもそも合コンの話を持って行った瀬莉は、結局みんなのキューピットになっただけだけど、前の夫との再会により、踏ん切りがついたし、米山と元妻の玲子も、決着がついて、全部丸く収まったね。

歩と戸倉と、平泉のトリプルな組み合わせや、平泉の恋人、片野との共同生活など、どうも歩だけは好きになれなったけど、まあ、それを言ったらさなえもどうかなって感じだったので、結局、普通の人は瀬莉と玲子と、佐藤夫妻だけか。

歩の悪趣味なとこが嫌いかな。
大島氏も、以前はきらきら透き通った感性だった気がするけど・・・。


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ペテロの葬列 宮部みゆき著。

《★★★》

バスジャックに遭った杉村三郎。犯人は警察がバスに突入した際に、自殺した。
後日、犯人は約束通りに人質たちに慰謝料を送って来たが、いったい誰が?そして、あの犯人の目的はなんだったのか。
まるで雲を掴むかのような調査だったが、やがて世間を騒がせた詐欺事件へと繋がっていく。

このシリーズ、ドラマでは小泉孝太郎が演じていて、コンツェルンの娘を国仲涼子。この二人、あんまり好きじゃなくて、特に小泉孝太郎がどうも、この人役者??なんだけど、役者・・・ね〜、と思ってるせいで、どうも小説も進まなかった。

で、国仲涼子の方は、彼女がってわけじゃなく、小説の菜穂子が嫌いなんだ。
今多コンツェルンの娘で、いわゆる愛人の子だから本流からは切り離されるわりに、贅沢に育って、前のシリーズのときから、菜穂子の世間ずれした発言や、現実を知らないお嬢様感覚にイライラさせられてて、ああ、このシリーズか、って思ったら、厚みもあったせいもあるけど、二週間かかってしまった。

でも、読み終えての感想。

いろんな意味ですっきりした。

庶民の出の杉村三郎が、今多コンツェルンの娘と結婚することになって、家族との絆も断たれ、会社も辞めさせられ、娘婿として微妙な立場で義父の会社に入る。
菜穂子は、自分の生活をまったく改めることなく、今までどおりの生活を満喫して、生まれた娘は私立小学校に通わせたり、なんともまあ、釣り合ってない夫婦だったんだよね。
それがずっと不愉快だったわけで、それがようやく解消される結果となり、すっきりした。

バスジャック事件が解決するよりも、そっちがすっきりしてよかった。

杉村三郎の気持ちも、実はずっとそこにあったんじゃないかな。
それをだましだまし続けてきたけれど、隠していた本心にやっと気付くことができて、ああ、すっきりした。

詐欺事件に関しては、ああ、そうですかって感じ。
たくさんいる被害者、加害者の中から、どうして選ばれたのか、ってのは結局分からなかったけど、それもまあいいや。

posted by じゃじゃまま at 14:38| 神奈川 ☀| Comment(1) | TrackBack(0) | 宮部みゆき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月21日

祈りの幕が下りる時 東野圭吾著。

《★★★》

加賀恭一郎シリーズだったのね。
まさか冒頭の夫と子供を捨てた女性が、加賀の母親だったとは・・・。
そんな過去があったのね〜。今までも、小説の中で出ていたことかもしれないけど、母親が家出してたなんて忘れてたのか・・・。

滋賀県のある施設で、無銭飲食をしようとした身元不明の老女が保護された。老女に心当たりのある職員が、東京にいる幼馴染の脚本家女性を訪ね、後日殺害されて発見される。
遺体の発見されたアパートの持ち主と、かつて加賀の母親が付き合っていた男性が同一であることが分かり、その行方を追うが、やがてホームレスの焼死体として処理された男性が、越川睦夫こと綿部俊一であると判明する。

母親が加賀の元を去ってから、その後の生活、気持ちを知っていた人物はもうこの世にいない。

滋賀県からやって来た被害者が会いに来たのは、幼馴染の女性脚本家。
警察は最初からこの女性に目をつけていたが、いったい、なにがどう繋がっているのか。

いつの間にか加賀の母親と最後に関わってた男性も、この事件に大きく繋がっていて、物語は一つにまとまっていく。
最初、女性脚本家はただの知り合いかと思ってたけど、思い切り主要人物だったのね。
しかも、加賀も、今回の事件はすべて自分に繋がっているのでは、と思う。

加賀が父親の最期に立ち会わなかったり、父子の間には厳しいものが流れていたけど、すべての謎が解けた。

私は、すっかり忘れていたので、その都度、そうかそうか、と思うだけだったけど、すべて、ここに着くためのものであるならば、東野氏はすごい!作家というのは、最初からこんな先のことまで考えて物語を書いているのか。

すごすぎる!
それほどに、すっぽりとすべてのパズルがはまった。

タイトル通り、幕が下りた、んだね。

それにしても松宮は溝端淳平だし、加賀さんは当然、阿部ちゃんが、私の頭の中を歩き回り、喋っていた。


posted by じゃじゃまま at 16:47| 神奈川 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 東野圭吾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月09日

ジンリキシャングリラ 山本幸久著。

《★★★》

幼い頃に母を亡くし、父と二人、父の故郷で暮らす高校生の雄大。
野球部を三日で退部になり、スーパーで先輩の珠井さんにスカウトされ、入ってしまった人力車部。
やる気のない同級生やら、やたらと威張ってる女子、漫画家を目指すクラスメイト、一年生は雄大入れてこの四人。
珠井さんに恋する雄大の、恋あり、友情あり、家族愛ありの青春物語。

それなりに面白かったのに、どのエピソードも中途半端な感じがしたのは残念。

お父さんと、亡き母の実家との確執。雄大は、人力車部の一年生四人で東京旅行のついでに会いに行き、和解してるけど、昔なにがあったのか、父はその誤解を解くことができぬままで終わったし、珠井さんとの恋も、これからってところで終わったのはいいとして。

そうそう、珠井さんとあのOBの人、福満との三角関係?っていうか、珠井さんと福満が怪しいのはなんとなく察していたけど。
だってやたらと珠井さんは福満が来るの喜んでたし、その辺ははっきりとは書かれてなくて、雄大が二人を目撃したのも、本人は見間違いか?って思ってるし、どうだか分からないけど、すっきりしないね〜。

珠井さんと別れたっぽいけど、結局なにがあってどうなったのか、あやふやで、もちろん現実的にはそんなあやふやなことってたくさんあるけど、でも、小説なんだからさ〜、その辺は小説らしくはっきりさせようよ。

中途半端な感じは否めないけど、でも、雄大と祖父母の交流や、雄大の亡き母への想いには泣いちゃったし。
やる気がなくてさぼってばかりと思っていた峰が、実は結構働き者でいい奴だったのもよかった!
威張ってばかりの女子と、伊吹君たちとの友情が芽生えた東京旅行もよかったな〜。

続編でも作るのかと思いたくなるような、未解決てんこもりだけど、どうなんだろ?



posted by じゃじゃまま at 17:23| 神奈川 ☔| Comment(2) | TrackBack(1) | 山本幸久 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月26日

悪医 久坂部羊著。

《★★★★》

一人のがん患者と、一人の外科医。
治療法はもうない、あとは余命を後悔のないように、と治療を拒否される患者と、これ以上の治療は患者の命を縮めるだけと、治療を拒否する外科医。

もう死ねと言ってるのか!と激昂する患者、小仲。自分たちは患者の命を救うために治療してきた。その治療がもう患者の病を治すためではなく、苦しみだけを与えるのなら、治療をしないことが患者のため、と思って告げた外科医、森川。

両者の言い分、気持ちはどちらも切実で、ものすごく考えさせられる小説だった。
最初は、医師が薬を使って患者を殺したりする話なのかと思ってたけど、実はすごく重いテーマだったんじゃないかと。

自分ががん患者なら、素直に受け入れるという森川医師は、それでも治してくれ、治療してくれという末期のがん患者に閉口する。
森川の妻は、夫に同調するでもなく、淡々と患者の立場に立って森川に助言するが、医師としての森川はその気持ちが分からない。

でもこの外科医は、筆者自身かもしれないけど、真摯に受け止め、苦悩する。
患者のために治療はしないのか、患者のために苦しい治療を続けるのか・・・。

その答えは出ないようにも思えた。どこまでいっても平行線だから。

だけど、森川医師は答えを見つけたんじゃないか。
小仲が、死の間際に森川に託したメッセージの中に。

「患者は希望は病気が治る、ということだけじゃない。医者が見離さないでいてくれることが、励みになる。そしてそれが、死への勇気へつながる」と。

私自身もどっちが正しいのだろう、答えなんてあるんだろうか、って分からなかったけど、最後に答えを見つけた。

そうだ、患者は医者に病気を治してもらいたい、でもそれだけじゃないんだ、末期だからもう治療はしない、というのではなく、それでも懸命に医者が尽くしてくれる、そうすればたとえ病は治らなくても絶望はしないんだ、って。

二人の末期がん患者。治療はもうない、と言われ、小仲は自分でいろいろな病院を周るが、結局どこも治療法はなかった。ホスピスに入り、心の準備ができるまでは紆余曲折、波乱万丈だったけど、最期は心安らかに受け入れ旅立っていった。

もう一人の患者は、最後まで森川の話に耳を貸さず、薬に頼り、副作用と病気の進行に苦しみながらそれでも治療を懇願してやってきた。
どちらも治らないだろう、どちらの死が正しいのか、それもそれぞれだと思う。

でも互いに、自分の意思で決めた選択だから、小仲の、副作用で苦しもうがなんだろうが、治療をしているときは病と闘ってるんだ、という、やることはすべてやったという気持ちで、最期を迎えられるのではないのか。

正しい、とかそういうことじゃなく、心安らかか、闘いながらか、どちらの最期を選ぶのか、ってことなのかもしれない。

今まで考えもしなかった視点で、考えさせられた作品だった。


posted by じゃじゃまま at 12:24| 神奈川 ☁| Comment(2) | TrackBack(1) | その他 か行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月19日

鏡の花 道尾秀介著。

《★★★★》

製鏡所の娘が願う亡き人との再会。少年が抱える切ない空想。姉弟の哀しみを知る月の兎。曼珠沙華が語る夫の過去。少女が見る奇妙なサソリの夢。老夫婦に届いた絵葉書の謎。ほんの小さな行為で、世界は変わってしまった。それでも―。六つの世界が呼応し合い、眩しく美しい光を放つ。まだ誰も見たことのない群像劇。
(「BOOK」データベースより)

「やさしい風の道」 ・・・ 嘘の物語を作るのが好きな少年。姉と二人で、昔家族が住んでいた家を訪ねる。もしかして自分は生まれてくる予定じゃなかったのではないか、その不安を確かめるために。
妻に先立たれた老人、瀬下が今は住んでいて、少年が母親のお腹にいた時に、姉であった赤ん坊が二階から転落死したことを、私たちは聞かされる。失ってしまった娘への想いは、残された弟を追い詰めてるのだろうか。

「きえない花の声」 ・・・ この章では、前の章で出てきた瀬下という老人が、川に落ちて死んでいて、残された妻と息子が、かつて家族で住んでいた海辺の町へやって来る。
妻は、ずっと夫の浮気を疑っていて、夫はあの女に会いに行った日に川に転落して死んだのでは、と思っていた。
何十年も経ったこの旅で、泊った旅館の仲居が、かつての夫の同僚の娘であることを知り、母親は、妻がずっと疑っていた夫の浮気相手だと知る。そして、浮気だと思っていたことの真相を知った時、なんとも残念な思いと温かな思いがあった。残念というのは、もちろん、生きていれば、っていうことだけど。

「たゆたう海の月」 ・・・ ここでは瀬下夫妻の息子、俊樹が死んでしまう。
夫妻は元気に暮らしているが、社会人になり、転勤してしまった息子から送られてきたハガキ。メールで返信を打つが息子からはない。そして俊樹が崖から転落死したとの連絡が入る。夫妻は、息子が最後に行った場所へ向かう。

「つめたい夏の針」 ・・・ 第一章では姉の翔子が死に、弟の章也が生きていたけど、ここでは章也が死に、姉が生きている。
章也は小学2年のときに交通事故で死んでしまう。それから翔子は高校生になり、生きていれば中学2年になる弟と同じである直弥と、夏のオリオンを見に、夏休み、内緒の旅をする。
翔子の心には、あの日、自分がもう少し違う行動をしていれば、章也は事故に遭わなかったかもしれない、とその後悔がずっとある。

「かけそき星の影」 ・・・ ここでは、直弥と真絵美の両親が死んでしまっている。蚊取り線香の火が洗濯物に移り、直弥の目の前で両親が燃えてしまった。
その原因をずっと自分のせいだと思っていた直弥と、姉の真絵美がずっと隠していた真実。

「鏡の花」 ・・・ 鏡作りと民宿をしている美代の家。美代には火傷があり、そのことを詫びながら死んでいった祖父がいる。本当はおじいちゃんのせいじゃないのに、それが言えなかった美代。
その民宿に、今までの主人公たちが全員生きて登場し、出会う。

当初は、読むたびに生きている人と死んでいる人が違って、その世界観に戸惑ったけど、道尾作品であること、そしてタイトルを考えた時、鏡に映ったもののように、向こう側には違う世界、物語があるのかもしれないと気付き、そうやって読むと、すんなりと受け入れることができた。

それでもやはり「鏡の花」が一番好きだ。自分のことを責めながら死んでしまったおじいちゃん。そんなおじいちゃんを想う孫の美代。
おじいちゃんに会うために、本当は信じてたわけじゃないけど、そんな自分でいたくて、章也の作った物語を信じたくて、夜抜け出す美代。
そんな美代を心配してみんなが探してくれた。火傷のある方も、ない方も、同じようになでてくれる母の手の温かさ。

何度も泣いてしまった。

左右対称の自分じゃない、本当の自分を見たくて「トゥルー・ミラー」が欲しくなった。


posted by じゃじゃまま at 10:24| 神奈川 ☀| Comment(2) | TrackBack(1) | 道尾秀介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

札幌アンダーソング 小路幸也著。

《★☆》

北海道は札幌。雪の中、全裸で発見された変態的な遺体の謎を解くため、若手刑事の仲野久は、無駄に色男の先輩・根来とともに、「変態の専門家」を訪ねる。はたしてその専門家とは、とんでもない美貌の天才少年・春。なんと彼は、四世代前までの、先祖の記憶を持つという。その膨大な記憶から、あらゆる事実を見逃かすことができるのだ。その頭脳により、春は犯人の遺したメッセージを看破。しかも意外な方法で犯人を挑発し始め…!?変態事件に巻き込まれたフツウの主人公の運命は。そして札幌の歴史に秘められた意外すぎる謎とは…!?
(「BOOK」データベースより)

なんだろう?
全然入り込めなかった。レビューには、札幌を知っている人、お勧め!みたいなこと書いてあったので、旅行で4回しか言ったことはないけど、楽しみに読んだけど。

謎の変死体とか、秘密組織とか、先祖からの記憶を全部脳にしまいこんでいる天才青年とか、まったく興味を覚えなかった。
札幌住民なら、その都市伝説を知っていて実は楽しめたのかな。

肝心の対決とか全部複雑なところはさっさとうまいこと終わっていて、装丁も趣味じゃなくて・・・。

posted by じゃじゃまま at 09:42| 神奈川 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 小路幸也 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月12日

森に眠る魚 角田光代著。

《★★★》

出会ってしまった5人の母親。出会う時期が違えば決して友達にならなかったかもしれない5人の母親が、母親であるがゆえに関係を絶てず、憎しみながらも嫌悪しながらも、見えない糸でがんじがらめになっていく。
その様がリアルで息苦しくなる物語。

東京の都心近くの、文教区。地域柄、進学先は公立、私立、国立と選択できる。お受験をする人を馬鹿にするもの、人知れず決意するもの、それぞれ。
あるジャーナリストの取材を受け、一人の母親がお受験も視野に入れてると発言したことから、疑心暗鬼になり、行動を疑ったり、幼児教室を見学に行ってみたり。
それぞれが様々な理由でお受験を決意するところが、リアル。

お金があり、我が子にはいい教育環境を、とお受験に至る親もいれば、相手の子育てに反感を持ち、あの子と、あの母親と関わりたくないからお受験をする者もいる。

すごく息苦しい物語だった。この物語を読めば、以前起こった「お受験殺人事件」を思い出すだろう。
あの事件では、被害者の母親が一時叩かれ、加害者が同情されるということもあった。
母親という存在に自分がなるまでは、そんな風に捉われたこともあったけれど、角田氏がどれだけ取材したかが分かる。

取材し、いろいろな母親と接し、闇の部分をよく理解したな、と本当に思った。

かつて悩み、苦しみ、もう忘れたはずのあの時代を思い出し、しばらく気分が悪かった。

小説に出てくる、かおり、瞳、容子が少しずつ自分にも当てはまり、息苦しかったけど、分かる分かる、ああ、私もこんな感じなのかな〜っていやな気分。
逆に千花や繭子は私の中にはまるでいないけど、それはそれでこんな人嫌だな〜とまたいやな気分。

容子と繭子が嫌い。

かつてのドラマの「名前をなくした女神たち」を思い出して、これが原案かと思ったくらい。
必ずセレブがいて、身分不相応の見栄っ張りがいて、嫉妬深いのがいて、翻弄される優柔不断がいる。

「ママ友は意識して作らない。いなくても、その場だけの挨拶で十分」と言ったのはかおりだったか。
苦手なタイプとは距離を置く瞳も分かるし、容子の相手の様子に敏感なのも分かる、でもそれは自分が苦しいぞ。

終盤、自分を苦しめる相手の子供を手に掛けようとしたのは、一体誰なのか。

距離を置ければ幸せだけど、それが分かっていてできない苦しみ。
そして、ラストの彼女たちの未来は、見合った結末が用意されていたと思う。決してハッピーエンドではない方向で。

容子と千花はまた小学校で一緒になり、互いを苦しめ合うのだろうか。
瞳はまた私学の中で、孤独を感じたり、場違いな感じで苦しむのだろうか。

かおりは、繭子は・・・。

息苦しく、不安にさせる秀作。



それぞれが誰かを嫌悪して、母親でなければこんなに苦しむこともなかったのに。
posted by じゃじゃまま at 17:02| 神奈川 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 奥田英朗 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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